老化のスピードは遅らせることができる?

年齢を重ねるにつれて、誰しもが感じる体の「老化」。そもそもなぜ人は老化するのでしょう。老化のしくみを知ることで、老化を防ぐヒントが見えてきます。長年に渡り老化を研究する石井直明さんにお話をうかがいました。

※この記事での「老化」とは、加齢に伴って生体機能が低下する生理的老化のことを指しています。

 

今回お話をうかがった方

石井直明さん

1951年神奈川県生まれ。東海大学工学部応用物理学科原子力工学専攻卒業。1986年より2年間、アメリカ・ロッシュ分子生物学研究所に留学。東海大学医学部教授を経て、2019年から2021年3月まで同大学健康学部特任教授。現在、東海大学名誉教授。医学博士。専門は老化学、分子生物学、健康医科学。

体の老化は、細胞の機能が低下することで進行する

細胞イメージ

画像:iStock.com/luismmolina

 

「学生時代よりも体が動かなくなった」「昔よりも量が食べられなくなった」など、体の衰えを実感することがあります。老化は病気と異なりゆっくり進むため、ふとした瞬間に突然、自覚することもあるでしょう。一体、体の中ではどのような変化が起きているのでしょうか。

石井さん「年齢を重ねるとともに、体を構成する細胞に小さな傷害が蓄積して、その結果、体に変化が現れてきます。以前よりも体が動かしにくくなったり、臓器の機能が低下したりするのはそのためです。本来、働きが低下した細胞は排除されて新しい細胞が補充されますが、年齢を重ねると細胞が入れ替わりにくくなり、細胞そのものの機能が低下していきます。このような細胞の機能低下は、実感はなくとも、じつは18歳から始まっているのです

 

加齢とともになぜ細胞の機能が低下するの?

活性酸素イメージ

 

細胞の機能低下は、誰の体にも起こることで、残念ながら止めることはできません。ではなぜ、加齢によって細胞の機能が低下していくのでしょうか。石井さんはそのひとつの要因を、「活性酸素による体の酸化」と言います。

石井さん「活性酸素とは、呼吸によって取り込んだ酸素の一部が通常よりも活性化した状態のこと。私たちは呼吸により体内に酸素を取り込んで活動のエネルギーを作り出しており、その過程で数%が活性酸素になります。

活性酸素を分解する能力も加齢によって衰え、体の酸化が進みやすくなっていきます。また、偏った食事や喫煙、強いストレスなども、活性酸素が過剰に増える要因です。このように、体の酸化が進行することで細胞を傷つけ、機能を失わせてしまうのです。逆を言えば、活性酸素を抑えることで、細胞の損傷を軽減できることになります

 

老化は、食生活次第で早くも遅くもなる

バランスの良い食事

 

活性酸素を完全に取り除くことは不可能ですが、日々の生活習慣を変えることで増え過ぎないようにすることはできます。石井さんは「やはり、日々の食生活が老化のスピードに大きく影響します」と言います。

石井さん「活性酸素でダメージを受けた細胞を修復するには、三大栄養素である、タンパク質と脂質、糖質を毎日バランスよく摂るのが基本です。こうした食生活に加えて、抗酸化作用のある栄養素、ビタミンやミネラルを多く含む食材を一緒に摂ることを意識しましょう。

とはいえ、毎食、適量を計算しながら食事をするのは現実的ではありません。その場合、1日2食を、お米など穀類の「主食」に、肉や魚、卵、大豆などたんぱく質主体の「主菜」、たっぷりの野菜、きのこ、海藻などの「副菜」を揃えるように意識するだけでも、栄養バランスのとれた食事に近づきます。また、運動を取り入れる場合は、筋肉の修復に欠かせないタンパク質やエネルギー代謝を助けるビタミンやミネラルがより必要になるため、多めに摂るように心がけましょう」

適切な食習慣は、健康のためだけでなく、老化を遅らせることにもつながります。細胞の機能を衰えさせない習慣で、いつまでも健康で若々しく過ごしましょう。

この記事の内容は2024年6月19日時点での情報です。