年齢を重ねるうちに「物忘れが多くなった…」と感じる人もいるのでは。特に40代、50代で思い当たる節が増えてくるかもしれません。物忘れが深刻にならないよう、日常生活でできる対策はあるのでしょうか。脳科学の専門家である篠原菊紀さんに聞きました。
物忘れの原因はワーキングメモリの機能低下にあり
何を言おうとしたか忘れてしまう、あの人の名前が出てこない……。こうした物忘れはなぜ起こるのでしょうか。篠原さんは「脳のワーキングメモリの機能低下」が主な原因と言います。
篠原さん「ワーキングメモリとは、分かりやすくいえば『脳のメモ帳』のようなものです。記憶や情報を一時的に脳に保存して、それらを組み合わせて答えを出す機能と言えます。
ワーキングメモリの機能が低下する要因は大きく2つあります。ひとつめは疲労やストレス、睡眠不足です。これらによってワーキングメモリの機能は一時的に下がります。ただしあくまで一時的なものです。十分に休養をとったり、ストレスがなくなったりすれば回復するので、それほど心配する必要はありません。
厄介なのは、ふたつめの理由である加齢です。ワーキングメモリの機能は、18〜25歳をピークに徐々に低下していきます。そのあと40代で一度大きく下がり、60代以降はさらに低下します。こちらの回復は一筋縄ではいきません。日頃から対策しておくことが大切です」
日常生活で物忘れ対策のためにしたほうがいいこと
加齢による物忘れを予防するには、日頃からの対策が必要とのこと。では何をすれば良いのでしょうか。篠原さんは、まず「食生活」と「生活習慣」の改善が大切だと言います。
篠原さん「食生活に関して、国際的に推奨されているのは『地中海食』です。地中海食とはイタリア料理などに代表されるもので、DHAやEPAといった脳に良い栄養素を含んだ魚をはじめ、野菜、ナッツなどの豆類が多いのが特徴です。基本的には栄養バランスの良い食生活を心がけることが大切です。
生活習慣については、短時間でも良いので筋トレなどの運動をしましょう。ダイエットなどは『数十分運動を続けないと効果が出ない』と言われますが、物忘れ対策については短時間の運動でも構いません。運動によって、認知機能の維持に役立つBDNF(脳由来神経栄養因子)などの“脳に役立つ物質”の血中濃度を高める効果が期待されます」
物忘れ対策の「脳トレ」を今からやってみよう
食生活や生活習慣を整えつつ、ワーキングメモリを鍛える“脳トレ”を行うのも有効とのこと。そこで篠原さん監修のもと、今すぐできる物忘れ対策になる脳トレ問題を4つ用意してみました。みなさんもチャレンジしてみましょう。
Q1:まずはこの7匹の動物を覚えてください。Q4でこれらの動物についての問題を出すので、頑張って覚えておいてください。
Q2:次に、左の絵と右の絵を比べて、6つある間違いを探してみてください。
Q3:続いて、AとBどちらの答えが大きくなるのか考えてみてください。
Q4:最後に、Q1に登場した動物をもう一度思い出して「干支に含まれない動物」が何種類いたでしょうか。
いかがでしたでしょうか。Q1では記憶力を、Q2では空間認知力、Q3では集中力と注意力を鍛える問題でした。それぞれが物忘れに効果的な問題です。しかし、篠原さんはQ4こそワーキングメモリを鍛えるのに最適な問題だと言います。
篠原さん「ワーキングメモリは『脳のメモ帳』と言いました。脳の中にメモ帳のページが数枚あり、何かを記憶するときはそこに情報を書き込んでいきます。この脳トレは、Q1で動物の情報を記憶したあと、Q2、Q3でさらなる情報を書き込むという作業を行っています。つまりQ1の内容をメモしてから、問題を進めるたびにメモ帳のページが増えていったのです。
すると、最初の記憶は新しい記憶に邪魔されて薄まりやすくなります。これを『記憶干渉』と呼びます。ワーキングメモリを鍛えるには、こうした『記憶干渉型』の脳トレが効果的です。何かを覚えたあと、他の情報を入れて前の記憶に干渉する作業をし、ふたたび最初の記憶を思い出す。こういった脳の使い方を日頃からしてみてください」
物忘れを予防するには、仕事や家事などで「ワーキングメモリが使われていることを意識するのも大切」と篠原さん。例えばいくつもの作業を同時に行うとき、「私のワーキングメモリが鍛えられている!」と考えると良いかもしれません。
【脳トレの答え】
Q2:カモの口が開いている。ウシの模様が違う。ゾウがリンゴを持っていない。亀の甲羅の模様が違う。ウサギのヒゲがない。ヘビの長さが違う。
Q3:B(A=4、B=12)
Q1とQ4:3種類(クマ、キリン、シカ)
この記事の内容は2024年9月18日時点での情報です。