日差しに暖かさを感じるようになってくると同時に、気になり始めるのが紫外線。日焼け止めなどで、入念に対策している人も多いでしょう。しかし、必要以上に紫外線を避けると、ビタミンD不足に陥る可能性があることをご存知ですか?ビタミンDは骨の健康だけでなく、免疫力や心の健康にも関わる重要な栄養素。紫外線を防ぎながら、ビタミンD不足も避けるにはどうすればよいのでしょうか。国立環境研究所・特命研究員の中島英彰さんに教えていただきました。
日本人のビタミンD不足は深刻!
東京都内で健康診断を受けた人の血液を調べたところ、98%がビタミンD不足であることがわかりました(※1)。この背景には、女性を中心に日光を避ける行動様式が広がったことが大きな原因だと中島さんは指摘します。
中島さん「1980年代にオゾンホールが発見されたことで、日本では紫外線によるさまざまな健康被害がクローズアップされるようになりました。特に肌への影響を気にする女性を中心に、日光を避ける行動様式が広がり始め、2000年代頃からは『美白ブーム』も追い風となって、一年中日焼け止めで紫外線を避ける習慣が推奨されるように。その結果、日光を浴びることで生成されるビタミンD不足に陥る人が増えたのです。特に若い女性の8割から9割がビタミンD不足の状態にあると考えられます」
一方、高齢者にとってもビタミンD不足は課題です。
中島さん「高齢者の皮膚は若い時と比べて日光からのビタミンD生成効率が悪く、また、ビタミンDを活性型に変換する腎機能も低下しています。そのため、若い世代だけでなく高齢者も積極的にビタミンD摂取を心がける必要があるでしょう」
ビタミンD不足になるとどうなる?
そもそもビタミンDは、どのような役割があるのでしょうか?ビタミンD不足による健康への影響について詳しく教えていただきました。
中島さん「ビタミンD不足が最も顕著に現れるのは、骨密度の低下です。ビタミンDは、皮膚の中のコレステロールの一種が太陽の紫外線を浴びることで変化し、生成されます。生成されたビタミンDは、体内で代謝され、腸からカルシウムの吸収を促進し、骨の形成に必要な重要な栄養素となります。不足すると、骨密度が低下して骨がもろくなり、重い物を持った瞬間に圧迫骨折したり、軽い転倒でも骨折したりする、骨粗しょう症や骨折のリスクが高まります。特に20歳前後は骨密度が最も高くなる時期なので、若いうちにしっかりと骨密度を上げておくことが、将来の骨の健康を守る鍵となるのです」
さらに、最近の研究では、ビタミンDにはさまざまな健康効果があることがわかってきています。
中島さん「注目すべきは免疫機能への影響です。冬に風邪やインフルエンザが増加するのは、日照時間の減少によるビタミンDの生成量低下と関連しています。また、うつ病など精神的な症状への効果についても研究が進んでいます」
ビタミンD不足を防ぐための紫外線対策とは?
ビタミンDは食事からも摂取できますが、私たちの体の中でも作られており、日光を浴びることにより皮膚で生成されます。十分なビタミンDを生成するには、どれくらい日光に当たれば良いのでしょうか?
中島さん「ビタミンD欠乏症を防ぐためには、1日15μg以上の摂取が推奨されていますが、日本人が食事から摂れるビタミンDは、5.5μg程度。残りの10μgは日光浴で補う必要があります」
ただし、必要な日光浴の時間は季節や地域、時間帯によって大きく異なると言います。
中島さん「夏の晴れた日の日中であれば、日本のどの地域でも8分以内の日光浴で必要量のビタミンDを生成できます。しかし、冬になると地域差が顕著で、沖縄の那覇では14分程度ですが、関東地方では40分程度、札幌では2時間以上必要になることもあります」
以下のサイトでは、日本国内11地点におけるビタミンD生成に必要な日光浴時間の目安がリアルタイムでわかります。自分の住んでいる地域をチェックしてみましょう。
ビタミンD生成に欠かせない日光浴。とはいえ、日焼けはしたくないという人も多いでしょう。そのような場合、どういった工夫ができるでしょうか?
中島さん「特に紫外線の影響が気になる顔には日焼け止めを塗ったとしても、首や腕などは塗らず、部分的に日光に当てるのがおすすめです。それも気になるという人は、外出時にできるだけ手のひらを太陽に向けるようにしてください。日焼けしにくい部位なので、日光浴に適しています。
また、最近はUVカットのメガネやコンタクトレンズをする人も多いと思います。もともと面積が小さい部分ですので、ビタミンDの生成には大きく影響しません。目を守るためにも逆に対策しておくのがいいでしょう」
また、日光浴の方法にも注意点があります。
中島さん「ガラス窓を通した日光ではビタミンD生成に必要なUV-B波が遮断されてしまうため、ビタミンDは全く作られません。窓際で日光が当たっているように感じても、ビタミンD生成の面では効果がないのです。ベランダに出たり、窓を開けたりして直接日光に当たることが大切です」
また、日光浴が難しい場合や冬季など、日照時間が短い季節には、他の方法でビタミンD不足を補うことも重要だとか。日光浴以外のアドバイスとしては、次のようなことが挙げられます。
中島さん「きのこや魚などのビタミンDを多く含む食品を積極的に摂取することをおすすめします。朝食に鮭を一切れ食べるだけでも、1日の摂取量としては十分。バランスの良い食事を心がけていれば、必要量を無理なく摂れますが、必要に応じてビタミンDサプリメントの利用も検討しましょう」
ビタミンD不足は現代人に多く見られる問題です。骨の健康だけでなく、免疫力や精神的健康にまで影響するビタミンDは、すべての世代にとって重要な栄養素であり、欠かすことができません。必要以上に紫外線を悪者にせず、季節や地域に合わせた日光浴の時間を意識するとともに、サプリメントなども活用しながら、健康を守る生活を心がけましょう。
この記事の内容は2025年4月17日時点での情報です。