5月からリスクが高まる「猫の熱中症」にご用心

暖かい窓辺でひなたぼっこをする猫の姿に、癒される飼い主さんは多いでしょう。しかし、「熱中症」には要注意! 特に5月からそのリスクは高まり、飼い主のちょっとした油断が、大切な家族である猫の健康を脅かすことも。猫の熱中症対策について、獣医師の小林充子さんに詳しく聞きました。

今回お話をうかがった方

小林充子さん

横浜国大卒業後、獣医師を志し麻布大へ編入。ウイルス研究を経て2002年に免許取得。動物病院勤務や皮膚科専門施設での研修を経て、2010年に目黒区で総合診療施設CaFelierを開業。動物と飼い主の声に寄り添い、最適な治療を共に選ぶ診療を心がけている。

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5月から増えている猫の熱中症

日向ぼっこしている猫

 

猫の祖先は砂漠地帯で暮らしていた生き物。それゆえ猫は寒さが苦手で、本能的に暖かい場所を好むのだそう。

小林さん暖かいひなたは、寒さを嫌う猫たちがリラックスできる場所でもあります。窓際や日当たりの良い場所でのんびりとくつろぐのは、猫にとって自然な行動です」

また、日中もほとんどの時間を寝て過ごし、あまり動かないのも猫の性質のひとつ。ひなたぼっこをしているうちに、気づいた頃には熱中症になっているケースもあるとのこと。

小林さん「真夏はもちろんのこと、5月ごろから注意が必要です。特にこの時期は、真夏ほどの暑さを感じにくいために、かえって猫が長時間ひなたに居続けてしまう傾向があります。完全室内飼育が一般的になった今、運動不足や肥満の子が多いことも、猫の熱中症が増えている原因と考えられるでしょう。そうした猫はますます動かなくなりますし、体温調節も苦手なんです」

猫は人と同じように汗をかくことができないため、一度上がった体温を下げるのは大変なこと。重度の熱中症は、脳障害や中枢神経障害、腎臓病などの後遺症が残る可能性があります。大切な家族を守るために、飼い主には何ができるのでしょうか。

 

猫のひなたぼっこ中、飼い主が注意したいポイント

寝ている猫

画像:iStock.com/rai

 

前述の通り、ひなたに引き寄せられるのは猫にとって本能的な行動です。熱中症が心配だからとひなたぼっこをさせずにいると、かえってストレスになるかもしれません。そこで、リスクを減らすために飼い主が工夫したいポイントを見ていきましょう。

小林さん猫に直射日光が当たらないように、窓にレースカーテンや遮熱フィルムを使うのがおすすめです。また、猫がよくいる場所に水飲み場を増やすのも効果的でしょう。もともと猫は面倒くさがりで水もなかなか飲まないのですが、すぐそばに水飲み場があることで、水分補給の頻度を増やすことにつながります」

室温は26〜27℃、湿度は50%前後を目安に設定。これを超えてしまう場合は、5月からでも空調を管理して、適切な温度をキープすることが大切です。飼い主のお出かけ中も、室温管理は徹底しましょう。

小林さん「室内の空気を循環させるのも有効です。猫は床の低い位置を歩く一方で、高い場所に登るという習性もあります。そのため、部屋の中で温度差が生じやすく、猫が普段いる場所の気温が、思った以上に高くなっている可能性もあります。サーキュレーターや扇風機を活用して部屋全体の温度差を減らし、快適な環境を保ちましょう

 

もし、猫が熱中症になってしまったら?

画像:iStock.com/krblokhin

 

猫は具合が悪くてもそれを隠す生き物。すでに熱中症になっていても、症状が分かりにくいのが厄介な点です。日ごろから様子をよく観察して、少しでもおかしいと思ったら動物病院を受診しましょう。

小林さん身体に触れるといつもより熱く、反応が鈍かったり、呼吸が浅く速くなったり、ぐったりしていたりという様子であれば熱中症が疑われます。お腹や内腿など、毛が少ない部分に触れるとわかりやすいです。その他、食欲がない、嘔吐・下痢などの症状が出ることも。自分で立ち上がることができない、歩き方がふらついている場合は、すでにかなり重症化していると考えられます。また猫の平熱は38〜38.5℃。直腸温(※)で39℃以上であれば、熱中症の疑いがさらに強まるでしょう」

動物病院を受診する前に、飼い主ができる応急処置はあるのでしょうか。

小林さん「まずはかかりつけの獣医師に電話をして指示を仰ぎましょう。熱中症が疑われる場合は、身体を冷やしてあげることが基本です。ただし急激に冷やすと、熱を持った血液によって脳や腎臓などに影響が出やすいため、ゆるやかに冷やすのが重要なポイント。タオルにつつんだ保冷剤を首やおでこに当ててあげたり、常温の水でかたくしぼったタオルで身体を包んであげたりしましょう。さらに可能であれば、扇風機やうちわなどで風を送ってあげてください」

猫は身体が濡れるのを嫌がるので、できる範囲で行いましょう。誤嚥の危険があるため水は無理に飲ませず、猫が自身で飲める場合は積極的に飲ませるとよいそうです

※:家庭での体温測定は難しい場合もあるため、無理をせず動物病院での測定を前提としましょう。


 

人間も猫も、命を守るために

日向ぼっこしている猫

 

「普段から猫の性格や生活パターンをきちんと知っておくことが、体調の変化をいち早く察知するカギです」と小林さん。適切な温度管理や水分補給、そして“平常時の様子を把握すること”は、人間の熱中症対策にも通じるポイントだと言えそうです。

小林さん「完全室内飼育の猫が増えたことで、猫自身が人に依存する部分も増えているように感じます。私たちの愛情を伝えることで、猫はちゃんとそれに応えてくれる生き物。日々猫の暮らしを丁寧に観察して、お互いにもっと“いい関係”を築いてもらえるといいなと思います」

これから迎える暑い季節。大切な家族の健康を守るために、人も猫も油断せずに過ごしていきましょう!

この記事の内容は2025年5月22日時点での情報です。