ロボットと共に創るサステナブルな暮らし


自宅や職場、介護施設など、身近な場所で導入が始まっているロボット。私たちの暮らしをどのように変えてくれるのでしょうか? ロボットの活躍で実現する、近い未来のサステナブルな暮らしを先取りしてみましょう!

ロボットの活躍がサステナブルな暮らしを支える

画像:iStock.com/onurdongel

 

急速な勢いで日常生活に浸透しつつあるロボット。飲食店の配膳ロボットや家事の必需品であるとも言えるお掃除ロボットなどの普及で、生活の変化を実感している人もいることでしょう。

それだけではなく、近年、ロボットは私たちの未来に関わる「サステナブル(持続可能)な暮らし」に欠かせない、以下のような社会的課題の解決をサポートする存在として進化しています。

・高齢化社会における「介護の質」の担保
・地球に優しく、人にも優しい移動手段の確保 ・健康的で幸福度が高いと感じられる「生活の質」の向上
・労働環境の改善



現在、人口減少や高齢化といった事情から、これらの課題を人手だけで解決するのが難しくなってきています。

しかし、テクノロジーの進化により、ロボットは単に労働力を補うだけではなく、人間に寄り添い、暮らしをサポートするパートナーになってくれると期待されています。

具体的にどんなことを実現してくれるのか、それぞれの分野のロボット活用の最前線を見ていきましょう!


 


【介護ロボット】が介護の質を担保する

はじめに、その筆頭と言えるのが介護分野です。

少子高齢化で介護が必要な世代が増えているにもかかわらず、介護の世界は人手不足が問題となっており、肉体的にも精神的にも介護職員の負担が重くなっています。そのため、スキルのある職員を育てていくことが難しくなってきているという現状がありました。

そこで期待されるのが、介護の質を維持し、ケアの充実を図ってくれる介護ロボットです。


症状に合わせた介護が可能なロボット「AIREC」

提供:早稲田大学理工学術院

 

この分野で昨今注目されているのが、早稲田大学理工学術院の菅野重樹教授が開発しているロボット「AIREC」です。

これまでも介護ロボットはありましたが、決まった機能を果たすことに長けていても、人に合わせて対応を変えることができないため、介護現場で普及しづらいとされていました。人との接触が多い介護現場では、利用者によって体の痛む場所が異なるため、その人に合った抱きかかえ方など繊細な対応が求められます。

そんな課題を解決することを目指したロボットが、自ら学習する機能を備えた「AIREC」です。利用者の体に合わせた介助を実行できるように開発されており、人との接触に適した柔らかいボディも持ち合わせています。

こうしたロボットが普及することで、介護の質を担保しつつ、より安全に介護を行うことができるようになるはずです。


 


【モビリティロボット】が移動手段を確保してくれる

モビリティの分野でもロボットが必要不可欠となるでしょう。

中でも大きく期待されるのが地方での活用です。現在、地方では人口減少などによって、地域交通の利用者減や交通事業者の担い手不足などの課題に直面しています。また高齢化により、地方の主要交通機関だった自家用車を活用する人も減っていくと言われています。

ロボットが、自由で安全に、安心して行き来できる新しい移動の手段になると、いつまでも住み続けられる持続可能な社会につながることでしょう。

目的地まで自動運転で移動できるパーソナルモビリティ「RakuRo」

提供:株式会社ZMP

 

現在、モビリティロボットの分野で注目されているのが、目的地まで自動運転で移動してくれるひとり乗り歩行速モビリティ「RakuRo(ラクロ)」です。利用者は目的地を専用のアプリで選択するだけで、周囲や速度を気にすることなく移動することができます。赤信号も認識して停車しており、もちろん、免許は不要です。自分で運転することがないため、高齢者などの移動手段に適しています。なお、「RakuRo」は、現行法上は遠隔操作型小型車に分類されています。

こうしたパーソナルモビリティロボットは、すでにさまざまな企業や研究機関が開発に取り組んでいます。


 


【ソーシャルロボット】が生活の質の向上を維持してくれる

健康的で幸福度が高いと感じられる「生活の質」の向上においてもロボットが活躍しそうです。高齢者が健康に暮らすためには、適度な運動とともに会話が必要です。コミュニケーションは脳の広い範囲を刺激し、血流がよくなるため、認知症や寝たきりを予防する効果があると言われています。

そこで近年注目されているのが、人とのコミュニケーションを目的としたペット型のロボット、ソーシャルロボットの存在です。

セラピー効果のあるアザラシ型ロボット「PARO」

提供:産業技術総合研究所

 

たとえば、産業技術総合研究所が開発したタテゴトアザラシをモチーフにしたソーシャルロボット「PARO」が挙げられます。なでると「キュー」と声を出して喜び、名前をつけて繰り返し呼びかけると、学習して反応するようになります。

セラピー効果が認められ海外では「医療機器」として、世界30カ国以上で在宅や施設での医療福祉で約7,500体が稼働しています。ロボットというと、機能面や実利的な部分ばかりが強調されがちですが、このように人の健康と福祉にも貢献できるわけです。


 


【サービスロボット】が労働環境を劇的に変化させる

とはいえ、ロボットの登場でもっとも劇的に変化するのはやはり労働分野かもしれません。建設や土木作業の現場や工場も介護と同じように深刻な労働力不足に陥っていますが、サービスロボットの登場によって人手不足が改善されるかもしれないからです。

食品工場向け人型協働ロボット「Foodly」

提供:株式会社アールティ

 

それに対して、株式会社アールティが開発した「Foodly」は、自動化が難しいとされる「お弁当のおかずの盛り付け作業」を安全に行うことができる協働ロボット。頭部のカメラで不定形な弁当のおかずを識別し、アーム・ハンド部がその1つを取り出して弁当箱に盛り付ける機能を有すると言います。

このような高度で繊細な作業ができるロボットが普及すれば、人間が何年もかけてスキルを学ぶ必要がなくなります。たとえばお寿司を握る職人技術がロボットで代用できれば、多くの人がプロが握ったようなお寿司を手軽に食べられるようになるでしょう。


ロボット1台で全てのことをまかなえる未来が理想

 

もっとも、ここまでご紹介したロボットは特定の役割を果たすための専用ロボットです。本当の意味で、ロボットでサステナブルな暮らしを実現するには、家事、仕事、健康管理、介護、医療と、1台で全てをまかなえる汎用ロボットが望ましいとも言えるでしょう。

こうしたスマートロボットを目指しているのが、早稲田大学理工学術院の菅野重樹教授が開発している前述の「AIREC」です。このロボットがすごいのは、人との触れ合いの中で学習し、一人ひとりに適応した支援やサービスを提供できることです。

提供:早稲田大学理工学術院

提供:早稲田大学理工学術院

 

ロボットが個人の生活に適応し、人生のあらゆるシーンに寄り添ってくれるようになったら、その先にサステナブルな社会が待っているかもしれません。なお、「AIREC」は今後もハードウェアの進化を続け、2050年の実証実験開始を目指しているそうです。



この記事の監修
菅野重樹さん

ロボット研究者。工学博士。早稲田大学理工学術院創造理工学部教授。日本ロボット学会会長。学生時代に加藤一郎研究室で筑波科学博に出展した鍵盤演奏ロボット「WABOT-2」を開発。自身の研究室では世界初の卵を割れるロボットハンドを持つ「WENDY」や人間共存型ロボット「TWENDY-ONE」を開発。

 

この記事の内容は2023年9月15日時点での情報です。