サステナブルな循環型農業 アクアポニックスの始め方


水耕栽培と魚の養殖を同時に行う画期的な農法として注目されている「アクアポニックス」。環境にやさしく、家庭でも手軽に導入できると言います。その仕組みや魅力についてご紹介します。

農業×養殖業のハイブリッドな栽培方法

2015年に採択されたSDGsにより、国や企業はもちろん、個人単位でも目指し始めた持続可能な世界。そんな中注目されているのが、野菜の栽培と魚の養殖を同時に行う「アクアポニックス」という農法です。アクアポニックスの普及活動を行う、株式会社アクポニの濱田さんにお話をうかがいました。



今回お話をうかがった方
濱田健吾さん

株式会社アクポニ代表。日本でいち早くアクアポニックスに関心を持ち、2014年にアクポニの前身である「おうち菜園」を創業。渡米しアクアポニックスを本格的に学んだ後、試験農場を設立。企業や農家、飲食店などへのアクアポニックス導入の支援をするほか、アクアポニックスを広く普及するための活動を行う。

 

環境にやさしいほか生産効率も高い「アクアポニックス」

 

濱田さんは、アクアポニックスのことを「小さな地球」だと表現します。まずはその仕組みを教えてもらいました。

 

濱田さん「自然界と同様に水の循環を利用し、魚と植物を同時に生育するのがアクアポニックスという農法です。具体的には、魚の排泄物を含んだ養殖水を微生物の力で分解し、養分豊富な水に変換させて、野菜の栽培に利用します。きれいになった水は、再び水槽に戻り循環し続けるわけです

通常は別々に行われる農業と養殖業をひとつにまとめるアクアポニックスは、生産効率が高いことに加え、水や肥料、エネルギーの節約も可能に。特に、通常の農業と比べても約80%もの節水効果があると言います。

 

 

さらに、化学肥料の使用や、水産養殖で発生するエサの食べ残しなどによる環境負荷を軽減でき、SDGsの17のゴールのうち11の目標が達成できると、濱田さんは教えてくれました。


 


手入れも簡単で自宅でも取り入れられる

さらにアクアポニックスは、小さな規模でも始められる点が大きな特徴。メンテナンスが簡単なことから、飲食店や企業の空きスペースを活かした導入も、すでに始まっています。さらに、観賞用を兼ねて、家庭で小規模なアクアポニックスを始めることも可能です

キット利用ですぐに始められる!

家庭用のアクアポニックスは、水槽やポンプがセットになったキットで気軽に始められます。順調に魚が育てば、1カ月ほどで自然と循環が生まれるので、家庭菜園やアクアリウムのように、頻繁にお世話をする必要がありません。

最近では、室内用、ベランダ用など設置場所に合わせたいろいろなキットも登場。家の大きさや鑑賞したい場所にあわせてキットを選ぶとよいでしょう。

おさかな畑 アクアスプラウトSV 32,780円/植物用フルスペクトルLEDライト 10,780円(株式会社アクポニ)

 

濱田さん「中でも家庭で取り入れやすいのは、45cm水槽を利用したキットです。部屋の隅など、陽の光の当たらない場所に導入する場合でも、ライトを設置することで、さまざまな植物が育てられます。部屋に馴染みやすいキットもあるので、インテリアに合うキットを選ぶ楽しさもありますよ」

水やりや肥料、水替えいらずで世話が簡単

 

アクアポニックスの大きな特徴となるのが、土を使わず、野菜への水やりが不要なところ。それを可能にしている重要なアイテムが、上の写真の「ハイドロボール」です。土の代わりに植物の下に敷き詰めるこのハイドロボールはセラミックの一種で、表面に空いている無数の穴の中に微生物が住みつきます。

さらに、日々のお世話は、魚へのエサやりのみでOK。ただ、少しずつ水槽の水が蒸発するので、2〜3週間に1度、減った分だけ足し水をします。微生物や植物が水を浄化してくれるので、水槽の水換えも必要ありません。

濱田さん「初期費用はかかりますが、その後は基本的には1カ月120円くらいの電気代と、魚のエサ代のみ。『魚にエサをあげていたら野菜も一緒に育った! 』と感想を持つお子さんもいるようで、魚を育てる楽しさに加えておトクさを感じられるのも魅力です」

幅広い植物や魚が育てられる

 

土を使わないアクアポニックスは、地中で育つ大根や人参など根菜以外であれば基本的に何でも育てられるそう。葉物ならハーブやレタス、大葉、実がなるものならトマトやイチゴなどが可能。(株)アクポニでは、ビニールハウス内でアクアポニックスを行っていて、唐辛子やカボチャも育てています。

濱田さん「室内用のキットで育てる場合は、ハーブや薬味、観賞用として観葉植物や花などもおすすめです」


 

対して、アクアポニックスでは海水が使用できないため、飼育できるのは基本的に淡水魚となります。(株)アクポニではマスやコイ、イズミダイとも呼ばれるティラピア、チョウザメなどが育てられていました。

濱田さん「自宅の場合、金魚やメダカなどの観賞魚も向いています。先ほどご紹介した45cm水槽の場合、金魚は5匹、メダカは20匹くらいがちょうど良いです。魚がいるため野菜に農薬を使うことができませんから、結果的にオーガニックな野菜を育てられます」

このように、いろいろな植物を育てたり魚を愛でたりする楽しみがあるのも、アクアポニックスならではの魅力です。


 


ポジティブな気づきを与えてくれる“小さな地球”

 

濱田さん「私もそうだったように、まずは難しく考えず“面白そう”という気持ちではじめてOK。やっているうちに『魚も育てているから殺虫剤は使わない方がいい?』『畑には魚がいなくても野菜が育つのはなぜだろう』など、気づきがどんどん生まれていき、さまざまなことを考えるきっかけになります」

動物を飼育することによる情操教育や食育など、子どもにうれしい学びがあるほか、循環を目の当たりにできるなど、SDGsを自分ごと化できるアクアポニックス。家庭でも、“小さな地球”を楽しんでみませんか。

※商品の価格は税込表記です。
この記事の内容は2023年9月15日時点での情報です。