わが家に最適な場所は? 子育てしやすい街の選び方

 

 

引越しの際には、事前にどんな街が自分や家族にフィットするかは見極めたいところでしょう。そこで、首都圏で子育て世帯が心地よく暮らせる街や家族に合った最適な街の選び方を住宅評論家の櫻井幸雄さんと一緒に考えました。

今回お話をうかがった方
櫻井幸雄さん

住宅評論家。年間200件以上の物件取材を行い、独自の分析や最新のトレンドなど、全国の住宅事情に精通。著書に『知らなきゃ損する!「21世紀マンション」の新常識』(講談社刊)、『買って得する都心の1LDK』(毎日新聞出版刊)など。

「子育て世代に人気の街」そのヒミツとは?

そもそも、子育て世帯にはどのような街が人気なのでしょうか? その特徴について、代表的なものを櫻井さんにピックアップしてもらいました。

子育て世代に人気の街特徴

 

櫻井さんによれば、子育て世帯に人気の街の特徴は、主に図の4つ。

このうち①〜③は子育て世帯以外にとっても優先度の高いポイントですが、養育費・教育費の負担が大きい若いファミリーが特に重視するのは「物件の賃料(販売)価格が抑えられていること」だと言います。

仮に4人家族とすると、広さは賃貸住宅の場合、最低でも50㎡、できれば60㎡、分譲なら60㎡以上、可能なら70㎡はほしいところです。ただ、広さを求めれば当然ながら価格も高くなります。おのずと、都心よりも手頃な価格で広い家が買える(借りられる)郊外や、穴場といわれるような街、そのなかでも都心への通勤アクセスが比較的よく、日常的な買い物環境がそれなりに充実しているエリアが選ばれやすい傾向にあります。

また、4つめの「地域に同世代の子どもを持つファミリーが多いこと」は、同じ属性のコミュニティが充実しているというだけでなく、こんな利点もあるのだとか。

学校の写真

画像:iStock/coffeekai

 

櫻井さん「たとえば、次々に新しい分譲マンションが立ち、多くの物件が供給されているエリアには、たくさんの子育て世帯が一気に流入します。すると当然、子どもの数が増え、地域にはファミリー向けの商業施設や小児クリニック、学習塾、保育施設などができ、自然と子育て世帯にやさしい街になります」

さらに、学区内の生徒数が急増したことで、新たに公立の小中一貫校が新設されるケースもあります。経済的負担の少ない公立で、小中一貫のハイレベルな教育環境を子どもに与えられることは、親にとっても魅力のひとつだと話します。

 

「自分に合う街」を選ぶためのポイント

その人の考え方やライフスタイルによって「暮らしやすい街」は変わります。自分たちに合った街に出会うための、判断基準のポイントをまとめました。

エリアの区分けと対象地域

 

まず、はじめにエリアごとの大まかな特性を知る必要があります。そのうえで、家族にとって心地いいライフスタイルが叶えられるエリアを見定め、具体的な街の候補を絞っていく。理想の街に出会うためには、このステップが欠かせません。

たとえば関東地方を「都心」「準都心」「近郊外」「郊外」に区分けし、予算を抑えて住むことができる場所・物件を考えてみると、各ゾーンの特性が浮かび上がり、家族が望む暮らしのイメージと照らし合わせやすくなります。

 

エリア別! 街選びシミュレーション

では、4つの各エリアには、どんな違いがあるのでしょうか?前述した子育て世帯に人気の街の特徴も踏まえて、それぞれの特徴や優位性が、特に強く現れている街を櫻井さんに挙げてもらいました。

エリア別住みやすさの特徴

 

都心は東京都中央区の「晴海エリア」。現在、東京都心の新築分譲マンション価格は3LDKで2億円を超えてくるため、買って住むにはハードルが高いエリアですが、晴海には東京五輪の選手村跡地である「HARUMI FLAG」の賃貸物件が数多く出ていて、1LDKが13万円台から借りられます。

櫻井さん「ファミリーで暮らすにはかなり手狭ですが、HARUMI FLAG内には新しい小学校・中学校も開校しますし、商業施設も公園もあります。狭さを許容してでも、都心の利便性を望む人や共働き夫婦などにおすすめです」

準都心は東京都世田谷区の「北烏山エリア」をチョイス。最寄り駅は京王線の千歳烏山駅で、京王線とJR中央線に挟まれたエリアです。櫻井さんによると、北烏山のなかでも最寄り駅から遠い“バス圏内”の住宅地が狙い目だそう。この一帯は戸建て中心の住宅地が奥深くまで広がっていて、価格帯も手頃。予算内で、ある程度の広さの物件が見つかりやすいと思います。また、子育て世帯が多く住んでいる点も魅力です。

近郊外は「西東京市」。ここまで都心から離れると、駅から徒歩10分以内の場所でも物件価格や賃料が抑えられ、4人家族の暮らしにも耐えられる広さを求めることができるでしょう。

郊外は「茨城県つくば市」。東京都心から約60km離れているため、土地の価格はかなり抑えられます。それでいて、最高運転速度130km/hのつくばエクスプレスで、秋葉原までは1時間かかりません。

櫻井さん「つくば駅は始発駅なので、座って通勤できるのも魅力ですね。周囲には研究機関が多く、教育環境の良さでも知られています」

 

優先したいのは「子育て施策?」それとも「価格?」

暮らしや子育てにおいて何を優先するか。それにより、選ぶべき街は変わってきます。子育て世帯の暮らしやすさにつながる要素から2つのテーマを選びました。

 

子育て支援の手厚さで選ぶ

手をつないでいる家族

画像:iStock/monzenmachi

 

1つ目のテーマは「子育て支援」が手厚いこと。各自治体では、国の子育て支援策とは別に、いろいろな取り組みを行っています。待機児童対策や子どもの医療費助成など、基本的な施策はどこも似ていますが、なかには独自性の高い取り組みや充実の助成制度が支持されている自治体も。街選びの際に、事前に調べておくと良いでしょう。

たとえば、千葉県流山市は首都圏でも特に子育て支援策に注力している自治体(※1)として知られ、市内の指定保育所をバスで結び、登園・降園をサポートする「送迎保育ステーション」や「子育て応援マンション認定制度」など、全国でも数少ない取り組みを行っています。

また、同じ千葉県の松戸市の取り組み(※2)も、子育て世帯から高い評価を得ています。市内には、0歳から3歳くらいまでの親子が立ち寄れる施設が数多く点在しているほか、市内全駅の駅チカ・駅ナカに保育施設を用意。預かり保育を行う「送迎保育ステーション」もあります。高校3年生までの医療費助成も、千葉県では松戸市が初めて実施。ほかにも、さまざまな助成・支援制度が充実しています。


※1:千葉県流山市「送迎保育ステーション」「子育て応援マンション認定制度

※2:千葉県松戸市「松戸市子育て情報サイト『まつどDE子育て』

 

これから注目! 価格抑えめの穴場で選ぶ

2つ目のテーマは「穴場」であること。ここでいう穴場とは、子育てがしやすい環境でありながら、家賃や購入価格が比較的抑えられているエリア。また、住宅の供給もそれなりに多く、予算内で広めの家が見つかりやすいエリアを指します。

櫻井さんが「穴場」の路線・街として注目しているのは、「西武新宿線沿線」と「昭島市」です。

西武線のホーム

画像:iStock/coward_lion

 

西武新宿駅から埼玉県の本川越駅までを結ぶ西武新宿線は、どの駅も利便性が高いわりに、同じく都心に向かう他の通勤路線の沿線に比べて家賃や購入価格が抑えめです。その理由は終点の西武新宿駅とJR・地下鉄の新宿駅が離れていて、徒歩で10分以上かかってしまうことだと言います。

櫻井さん「西武新宿駅と東京メトロ丸の内線の新宿駅を地下通路でつなぐ計画もありますが、今のところ工事期間は未定です。その若干の不便を許容できるなら、検討の余地はあると思います」

次に、昭島市ですが、こちらも都心から向かうには立川で青梅線に乗り換えなければならず若干の不便さはありますが、そのぶん土地の価格が抑えられています。土地が安い利点を生かして、最近では建物の質にこだわったマンションが増加中だとか。

櫻井さん「近年は建築費の高騰もあって建物のグレードを落とす物件も多いなか、昭島市では手頃な価格で広くて質の高い家に住める。これは大きな魅力だと思います」

 

家族の理想に合った街選びを

どんなエリアに住むか、何を優先するか…家族の理想は多種多様ですが、今回挙げたポイントを参考に、自分にとって最高の街をぜひ見つけてください。

この記事の内容は2024年2月15日時点での情報です。